入ったことのないカフェに入ってみたい。パリには星の数のカフェがある、老舗から最近できたカフェから異国風のカフェまで、そう星の数。カフェ大国だもの。
そう、今日はちょっと甘いものも楽しみたい。でも何のガトー(ケーキ)が食べたいかはっきりは決めていない、ピンとくるものがあったら食べたいだけだ、よく考えたら甘くない軽食だってよいのだ。
だから、メニューが見たい。
📍172 Boulevard Saint-Germain 75006 Paris
(参考)Café de Floreオフィシャルインスタhttps://www.instagram.com/lecafedeflore/
少し時間を置きつつ最低2回は相互の方向から店前を通り過ぎる、それが不自然にならないように携帯で道を探しながら、時に交差点で行きかう人や、お目当てのカフェの隣のブティックのショーウィンドーに飾られた綴りの少しおかしな“東京”と胸にでかでかと書かれたスウェットにちょっとシニカルな視線をやったふりをする。
アンニュイな表情でピンク色に染まった雲が低く石造りの重厚な建物にかかり始めた、何世紀も変わらないパリの街の風景に目を奪われていると思わせればこちらのものだ。
メトロ入口へ地下に続く階段を上がったすぐ傍にあるカフェも多いので、しばしばメトロの入り口を探すようなふりをしながら、でもあまりに不安げな顔でトロトロしていると、これは明らかに観光客だと思われスリに狙われても困るので、シャキシャキと動く。
どうしてパリのカフェのメニューは窓にベタっと、しかも日本人が読み慣れない特殊なフォントに感じる手書きの文字で書いたり、テラスの敷地内にデジュネ(ランチ)のメニュー看板を入れ込んだりするのだ(きっと看板は公道に出してはいけない決まりなのだろう)。
入り口近くまで寄らないとメニューの詳細は確認できないことが多いので、しっかり立ち止まって見ると近年一見さんにも親切なパリ中心部のカフェでは特に、ギャルソンの来店歓迎にもはや捕まってしまう。
要するに、先にメニューをしっかり確認することはあきらめて、店構えと雰囲気、客層、そしてギャルソンの接客様子から、入店覚悟を決めるしかない。仕方ない、そうして店に入ってから、我々にはようやくメニューをゆっくり選択する権利が生まれるのだ。
万一メニューを見てから、勘を外したと気づいた際には、1杯のカフェを楽しんで、休憩にコーヒーが飲みたかったふりをして、端数ばかりのチップを置いて出るがよい。
以上、すべては入店時に「メニューを見たいだけ」と笑顔で言うだけのことができない対象者に限る。
ところでメニューからその時に欲していた自分好みの注文まで探し当てた後で、出てきた実物が予想と違ってがっかりしたことは不思議とないことに気づく。
初めてのカフェ選びは、コーヒー1杯をかけた勝負が楽しいのだ。