夏のパリ

東京は今年も猛暑だという。ここ10年の温暖化は肌で感じられて、日本の本州はもはや亜熱帯ではなく熱帯に入るのではないかと感じてしまう。

欧州でも2010年代より、異常な猛暑が襲い、2015年の7月のパリでは40年ぶりに摂氏40℃を超した。それを皮切りにするかのように、近年は毎年のように数週間の猛暑Canucule(カニキュル)は恒例となっている。

パリの四季は東京と同じく春夏秋冬だが、平均気温が東京より5℃ほど低く、湿度がないせいか、場合によっては同じ季節で10℃くらいは低い気温に感じることもある。特に冬には、石造りの街と石畳の地面が寒気ごと覆って閉じ込めているかのように、骨が軋むほど足元からも頭の上からも凍てつく空気が街を対流するのだ。

ちなみに2015年の40年ぶりの熱波時パリにいて、翌日が未曽有の猛暑になるという予報を聞き、恐怖を覚えたことを今も思い出す。東京でも40℃は経験したことがないので、いつもは涼しい顔をしたその街におよそ似つかわしくない、蜃気楼が立つアスファルトの道路という初めての光景は、世界の終末の始まりかのように思えたのだった。

ルーヴル美術館の前に広がるチュイルリー公園では、毎年夏の期間、移動式遊園地が開催されている

夏でも30℃行くことが年間を通して数日あるかないかというパリの街では、一部の百貨店などを除くと冷房の空調がないことが多く、地下鉄やバスなど交通機関、大型の駅でも通常冷房はなかった。一般家庭は尚更で、扇風機のような、とにかく冷やすものがない地なのだ。

水を飲み続けていれば、暑さには比較的耐性のある自分は倒れはしないだろうと思っていたが、さすがの強靭なイメージのあるフランス人もこの40年ぶりの熱波には老人を中心にたくさんの方がその2-3日に熱中症で亡くなったと聞いた。道路のアスファルトが溶けて、シャルルドゴール空港からパリへの高速は一時通行止めになった。

その時、自分は仕事で展示会場にいたのだが、フランスでも最も大きな展示会場のひとつで設備も整っているはずなのだが、やはり冷房の空調機能等は一切なかった。しかし、建物の中に入ってしまえば、湿度のない欧州の猛暑は、日本で同じ温度になるよりは大分凌ぎやすいことも発見であった。

それから早5年目となる一昨年2018年、新型コロナウイルス感染症が流行する前のパリの猛暑を伝えるニュースでは度々日本のメディアでも、エッフェル塔を望むトロカデロ(Trocadero)庭園の噴水で老若男女問わず、水浴びをして凌ぐ様子が映し出されていた。

暑さにも強く進化したパリの人々の逞しさに驚きつつも、少しほっともした。短期間とはいえ、猛暑が毎年ほぼ恒例となってしまったいまでも、パリ市内のメトロには相変わらず冷房設備はほぼないし、一般家庭にも劇的にエアコンがついたということもない様子だ(建物と窓が古いと、そもそも設置ができないのもあるだろう)。

長くて1~2週間の猛暑は、ちょうどバカンス時期なのでお店も夏季休暇でいつもよりひっそりしたパリを逃げて避暑地に行くか、石造りのため空調がなくても大きく温度が上がらない室内で過ごすか、元気があればセーヌ川岸の~8月の間人工ビーチを作るパリ市長局による「パリ・プラージュ(砂浜)」で日光浴をし、具合が悪くなるくらいならいっそ噴水を浴びて凌ぐ。

しかし街の真ん中の観光スポットの噴水に、住民が水着で押し寄せることはあっても、百貨店に涼を求めて殺到したりはしないのが、なんとなく日本人との感覚の差があるように感じる。東京で例えたら、東京在住者が、皇居のお堀に入るような感覚?とまではさすがに言いすぎなのだろうが、日本人の自分からしたら正直少しびっくりする、他人の目を気にしない自分らしく生きるフランス人的な避暑方法なのだなあと思って、なんだか微笑んでしまったのだった。

パリ・セーヌ川岸に7~8月の間人工ビーチを作るパリ市長局による「パリ・プラージュ(砂浜)」では、土手の車道は封鎖され、砂のビーチやヤシの木が設置され、アート企画など様々な活動が行われている

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